NEWSインタビュー
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2024/03/25
- インタビュー
- お知らせ
学問分野に捉われずオープンマインドに共同研究を
2023年5月に行われた「データサイエンスカフェ」では、「ベイズ統計を用いた考古学研究の実践 ―日本考古学とアンデス考古学―」をテーマに、学士課程基盤教育院の白石哲也准教授と、人文社会科学部の松本剛教授にお話をいただきました。データサイエンスカフェ終了後、お2人に考古学を志したきっかけや共同研究をする理由、データサイエンスとの関わり方について、お話しを伺いました。 本インタビューをきっかけに、白石先生と松本先生が進めてきた「魚醤」の研究に当センター長の奥野先生も加わることになり、2023年8月に行われた「第2回山形大学異分野交流学会」ではお三方のご発表が学長賞を受賞しています。 聞き手・奥野貴士 山形大学データサイエンス教育研究推進センター長(2023年5月10日実施) 学問領域にこだわらず、幅広い分野と協働 大学生の頃、漠然と考古学に興味はありましたが、海外で研究をしたいと思っていました。そんなとき、国立科学博物館で開催されたシカン文化※1の発掘展が転機になりました。シカンの名付け親で、後に僕の指導教官になる島田泉先生の監修でした。なんとこの展示、たった1つの貴族の墓からでてきたものだけを頼りに社会全体を語っていました。でも、学際協働※2にもとづいて詳細に分析すれば、驚くほどたくさんの情報が得られるんです。たとえば遺体の骨学分析からは、性別や死亡年齢はもちろん、死因や体格、病歴、栄養状態までわかりますし、墓から出土した金属製品を冶金技術の専門家が分析すれば、どのような技術をつかって作られたかのみならず、職人たちがどのような生産体制のもとで仕事に従事していたのかまで推測することができるんです。完全に魅了されてしまった僕は「この先生につきたい!」と思って、アメリカの大学にいる先生に手紙を書きました。最初は断られたんですが諦めきれなくて渡米し、学部4年生に編入。初めてお会いしたとき、先生はまさかアメリカまで来るとは思っていなかったようで驚いてましたね。授業や課題論文で高評価を得ることで、発掘に同行させてもらえるようになり、大学院に進学して研究室にも入ることができました。 ※1 ペルー北部沿岸で9世紀~14世紀に栄えた文化※2 複数の異なる学問領域が協力し合うこと 考古学を本格的に志したきっかけが、学際的研究だったからか、今でも自分の専門外の分野や技術は積極的に導入したいと考えています。例えば、LiDARやドローン空撮、フォトグラメトリーなどを駆使して遺跡の三次元地図を作るとか、早い段階から取り入れてきました。はじめは全然わからなかったりもするんですけど、一から勉強して、ある程度理解できるようになったら専門家と協働します。共同研究するにも、評価はできないといけませんから、自分にも知識は必要です。大変なことではあるけど、幅は広がります。(松本先生) 先史時代の食事と健康を紐とくカギはウンチ? 小学校低学年のときに、テレビ番組の「世界ふしぎ発見」をみて、面白そうだと思い、考古学を目指しました。その後、大学進学時に浪人していた時、佐原真先生(考古学者)の本を読んだのですが、それが面白かったんです。佐原先生は弥生時代の研究者ですが、自分は佐原さんの本を読む前に、「史記」や「孫子」、「論語」を読んでいて、時代もリンクするというところにも興味を持ちました。そこで、日本の私立大学で最も早く考古学専攻を設立した明治大学に進学することにしました。 学部生の頃に、弥生時代の研究を目指していました。弥生時代は、食の変化がとても面白い時代で、今も継続しているテーマになります。その後、大学院は首都大学東京(現在の東京都立大学)へ。都立大は、実験考古学など、日本では非常に珍しい取り組みをしている研究室でした。今も実験や民族調査を行っているのですが、その基礎はこの頃に学んだところになります。 今は、先史時代の食と健康を繋げたいと思い、研究を進めています。食物をつくり、食べ、出す(排泄する)ところまでの一連を、栄養学とかDNAとかの研究者にも入っていただいていて分析しています。最終的には、先史時代に生きた人たちの健康状態を知りたいですね。その点でも、ウンチはすごく大切。日本全国の排泄物の化石を調べていてデータベースにしています。件数としては1000もないくらいで、そこまで多くはありません。ただ、病気とか寄生虫のチェックをして、今すごく関心を持って取り組んでいるテーマになります。(白石先生) 着任後、すぐに意気投合。まずはなんでもやってみる 僕は白石先生より少し前に山形大学に着任していましたが、白石先生が着任されたときに飲みに誘っていただいたんですね。それ以来、堅苦しくなくカジュアルに仲良くしています。どちらも国境を越えて共同研究をしてきた人間だからオープンマインドなんです。白石先生はいつもなにかあればすぐに提案してくれます。僕は発酵文化に強い関心があるんですが、それを知った白石先生が「今度、魚醤の研究をするので一緒にやりませんか?」と誘ってくれて、研究チームに加わりました。山形の飛島には絶滅寸前の魚醤があり、現地調査に赴きました。2024年3月末には研究成果をまとめた本が刊行になります。(松本先生) 今後の科学技術発展から期待できる発掘作業の効率化 発掘作業というのは本当に大変で、膨大な手間と時間、費用がかかります。また、筆や竹串などで繊細に作業することもあれば、ツルハシを使って豪快に掘り進めることもあります。近未来を舞台にしたある映画のなかに、まったく掘らなくてもどこになにが埋まっているかを三次元映像で知らせてくれる超高性能の地中探査機が出てきました。今でも地中レーダーを使うことはありますが、わかるのは「このあたりに何かがある」という程度で、それが何であるかまでは教えてくれません。あんな風になにがどこに埋まっているのかをピンポイントで知らせてくれるような機器が登場しないかなあと妄想することがあります。(松本先生) 「文理融合」という言葉に考えること 学生の頃、研究室にいると、よく「なんで研究室にいるんだ?」と言われました。発掘や現地調査などフィールドに出て、とにかくいろいろなモノをみてこい、ということです。また、考古学を専攻した学生は考古学だけ、データサイエンスを専攻した学生はデータサイエンスのことだけをしていればよいかといえば、決してそうではないと思っています。わからないことを知るためには、たくさん勉強しなければならないし、経験も積まなければなりません。そこに、学問分野というのは関係ないと思います。一方で、自分自身が原点に立ち返られる場所もまた必要で、それが学問分野であり、自分にとっては考古学です。(白石先生) 人類学の基礎を築いた人たちというのは、地理学や物理学、医学の勉強をしていた方だったりします。それまでにない学問分野を新たに作り出した人というのは、みんなある意味でジェネラリストだったのでしょう。もちろん特化した専門はあったわけですが、それ以外にも目を開いているから新しい学問体系を作ることができたのでしょう。そもそも「おれ、文系」とか、「わたし、理系」とか言って、自分の守備範囲を限定してしまうのって、とても残念なことじゃないですか。教員間でも、学部や分野に捉われずに協働して、そういう姿勢を学生に見せていければと思います。(松本先生)
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2024/03/01
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植物と菌の密接な関係を明らかに。生物間の相互作用を解析することで開ける未来
私たちの身の回りにはおびただしい数の微生物が存在していますが、それらは目に見えないだけではなく、その多くは育てることすらできません。それでも、微生物同士や、ほかのもっと大きな生物と一緒に生きることで、自然界で大きな役割を果たしています。2023年10月に行われたデータサイエンスカフェでは、「生物間の見えない関係をひもとく」という演題で、山形大学理学部の横山潤教授にご講演いただきました。講演後、横山先生に研究を進める上でのデータサイエンスとの関係や今後の可能性について、お話を伺いました。 聞き手・奥野貴士 山形大学データサイエンス教育研究推進センター長、石川彩香 講師(2023年10月25日実施) 山形大学理学部 横山潤 教授 植物が好きな気持ちの先にあった研究者の道 実家は自然豊かな場所にありました。父は植物を栽培するのが好きで、自分も植物が好きでした。自分が見たことのない植物がたくさん載っていたので、図鑑を見るのも好きでしたね。また、植物だけでなく動物にも興味があり、「どちらも好きなら、関係性の分野を研究してはどうか?」と、大学院でアドバイスをもらい植物と昆虫の関係の研究を始めました。 その後、東北大学に着任したのですが、実は仙台は植物学的にも面白い場所です。例えば東北大学植物園は、伊達家の水源かん養林で本来の森林のシステムがそのまま残されています。また、仙台は、ブナの林ができるには夏がやや暖かく、一方でシイやカシの常緑樹林ができるには冬が寒過ぎるため、他所では珍しくモミとイヌブナが林をつくっています。モミと菌類というのは密接に関わっていて、そこから「菌類と植物の関係も面白そうだな」と思いました。植物は菌類に炭水化物を与え、菌類は周囲から吸収した窒素やリンを植物に与えています。研究者によっては、その共生関係がなければ、植物が陸に上がることはできなかったのではないかという人もいるくらいです。 研究手法の進化で得られる情報量が増加 昔は植物を経時的に詳しく観察するのはとても大変でした。今でも基本は変わりませんが、現場で撮影した画像を解析して非破壊的に形態を測定したり、長時間のタイムラプス撮影することで、開花の開始から終了にかけて形がどのように変化するかとか、どのような昆虫が訪花したのか調査したり、さまざまなことを効率的に調べられるようになりました。私の師匠の時代には、簡単にDNAの塩基配列を調べることもできなかったので、海外の標本と形を比較したりしながら、植物の研究を進めていたわけですが、DNAを解析できるようになり、得られる情報が格段に増えました。特に微生物を分析する上では、DNA分析はなくてはなりません。そして、DNAの塩基配列を解読する装置・シーケンサーも日々進化しており、一度に分析できる検体数や、解読できる長さも格段に増えました。 まだまだ未知な分野を、どのように補完していけるのか 次の世代のシーケンサーでは、現在では判定できない情報を読み取れるようになったり、より正確な分析が可能になったりするでしょう。現在のシーケンサーでは塩基配列の部分データを組み合わせて、ゲノムを再構築していますが、今後、技術が進み、限られたデータから全体を推測して生き物の復元ができるとか、生物間相互ネットワークといった生き物の関係性が解明できるとなれば素晴らしいことです。そういう面で、AIは重要な貢献をしてくれるのではないかと期待しています。 例えば、人間とバクテリアの関係の全容が分かれば活用方法も広がると思います。「あるバクテリアが腸内にいると長生きする」ということが明確になったら、それをプロバイオティクスで投入するとか、そういう活かし方もあるかもしれません。 これまでに様々な研究を重ねて、いろいろなことがわかってきていますが、それでも現在までに判明していることって、実は大したことはないと思っています。バクテリアも現在までに数万種が判別されていますが、もし何十億種もいるのだとしたら未知な部分がほとんどなわけですから、研究の先はまだまだ長いですね。
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2023/10/04
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山形の大切な場所で、今、何が起こっているのか?~森林のデジタル化で見えるもの~
山形県と宮城県の県境にある蔵王連峰のアオモリトドマツ(オオシラビソ)林では、ハマキガやキクイムシによる集団枯損が発生しています。これらの昆虫の大発生の原因は未解明です。2023年4月に行われたデータサイエンスカフェでは、「蔵王山のアオモリトドマツのデジタル化」という演題で、農学部のロペス・ラリー教授にご講演いただき、森林の衰退や樹種構成の変化には、虫だけでなく、気候変動も影響しているとのお話がありました。ご講演後、これからの森林研究におけるデータサイエンスの可能性や、研究を通して学生に伝えたいことについて、ロペス先生にお話しを伺いました。 聞き手・奥野貴士(データサイエンス教育研究推進センター長) 山形大学 Lopez Larry教授 (農学部主担当/森林生態学) なぜ、蔵王をフィールドに選んだのか? 以前、モンゴルで研究していたときのテーマは森林火災でした。しかし、研究を進める中で、火災よりも虫の方が、森林に与える影響が大きいことに気がつきました。火災の方がニュースになりますが、虫の食害などにより弱くなった森林は、火災と大きく関係していました 蔵王に観光で行ったときに、森林が虫害で衰退していることを知りました。シベリアでは葉を食べる虫による食害なので森林は数年たつと復活する場合もあります。蔵王についても、当初は同じように復活すると考えていたのですが、現状では、自然に回復しないことがわかりました。蔵王の森林変化は非常にダイナミック。数年にわたって解析すると、毎年の変化がとてもよくわかります。しかも、画像データにすると、ビジュアル変化が分かりやすく、山形はもちろん世界の人たちに「蔵王に何が起きているか」、理解してもらえるようになるのではないかと思いました。 “データの集め方“を変えることで、期待できること 以前から、研究でドローンは活用していましたが、当初は撮影して“見る”だけでした。しかし、2018年にやってきたイタリアからの留学生が、ドローンで撮影した画像の解析ソフトを扱うことができ、活用の幅が広がりました。また、現在はパナマ大学の学生がいるのですが、彼はコンピューターサイエンスのスペシャリスト。ディープラーニングでの解析を担当しています。私の研究室には、いろいろな国の留学生が集まってきますが、一人ひとりがさまざまなアイデア、技術、経験を持ってやってくるので、研究が飛躍的に進んでいます。 日本は68%が森林ですが、実はまだまだ謎も多いです。ドローンを活用し、森林をデジタル化することで、謎が解けると期待しています。例えば、「一つの山の森林バイオマスがどのくらいあるか」、「伐採した場合の木材の価値はどのくらいか」なども、リアルタイムで予測できるようになれば、効率的な管理ができるようになるかもしれません。山形にとって、蔵王はとても大事な場所。今後は研究を進めると同時に、ドローンを使いながら地元の小学生~高校生などの若い世代にも現状を知ってもらえるような活動もできればと考えています。私にはない発想をもっているかもしれませんし、将来は大学に入って一緒に蔵王の研究をしてくれるかもしれませんしね。 森林研究を通して、伝えたいこと 私は気候変動影響の研究も同時に進めています。天候や気温、湿度などの気象データから、何がどのように変化しているのか分析しますが、森林生態系などの「環境」がどのように変わっているのか、気象が生態系にどのような影響を与えているのかは、わかりにくいものでした。ドローンを用いて連続的に記録することで、10年後や20年後にどのような変化が起こるのか、分析できるようになると考えています。広範囲の画像データを残すことができるので、研究も大きく広がります。森林の研究を進めるにあたり、フィールドを歩いて調査することはこれまで同様に大切ですが、広い目で森林を理解するためには、ドローンなどを用いたデジタル化も大切。多層的な視野を養うことで研究が発展していくのだと思います。
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2023/09/29
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データサイエンス座談会 番外編
〜座談会終了後、学生の皆さんにコメントをいただきました!~ わたしが、学生時代にやって良かったこと・身につけて良かったスキル ・様々な経験(授業、バイト、イベント参加)をしたこと・プログラミングの勉強 人間にしかできないことは“意思決定”であると今回の話を聞いて学びました。そのため、様々な経験をし、様々な人と対話をすることで、自分がやりたいことを考え、自己決定するというプロセスを、残りの学生生活も大切にしたいと感じました。(4年 秋葉さん) 新しいことに積極的に挑戦しました。 データサイエンスカフェに参加したり、サイエンスコミュニケーションの授業をうける中でScienceを大学外の人に伝えたいという思いが生まれ、友人と「サイエンスカフェ」を企画しました。反響もよく、7月に第2回のサイエンスカフェを開催します。今回の対談をうけ、どういう風に話を回していくかや、専門の話を分かりやすく、楽しく伝えるにはどうしたらよいかも考えられました。(4年 高橋さん) わたしが、これから身につけたいスキル・学んでみたいこと・チャレンジしたいこと これまで以上に、データ分析の結果を自分がどう考えるかを大切にしたいと思いました。データ単体よりも、どうしてそのようになったのかという過程に目を向けたいと思いました。(2年 齋藤さん) AI等を活用し、データや資料から自分の意見を選びとることができるスキルを身につけたい!データや統計に関する高年次の授業にとても興味がわいた。(2年 富岡さん) チャットGTPやコンピュータの知識や感情に越されないように、よく考えて、人間(自分)にしかできないアイディアを出せるようにすることにチャレンジしたいです。人間が打ち込んだデータを自分で学習する人工知能にのっとられないようにします。(1年 田茂さん) もくじ テーマ1:データサイエンティストと聞いてイメージすることは?(Vol.1へ) テーマ2:いま話題の「ChatGPT」もう使ってみましたか?(Vol.2へ) テーマ3:人工知能が人間を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」は来ると思いますか?(Vol.3へ) 番外編:参加学生のコメント
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2023/09/29
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データサイエンス座談会 Vol.1
玉手学長と語り合う身近なデータサイエンス 2023年5月、玉手学長と山形大学学生5名による対談が行われました。データサイエンスに関する複数のトークテーマから、サイコロを投げて出た目のテーマについて話すという形式で、会場は終始なごやかな雰囲気。話題は、身近なデータサイエンスのことから今話題のChatGPTにまで展開していきました。 参加者 秋葉 玲奈さん(理学部4年) 高橋 雅子さん(理学部4年) 齋藤 奎舜さん(人文社会科学部2年) 富岡 智史さん(人文社会科学部2年) 田茂 柚希乃さん(人文社会科学部1年) 玉手 英利学長 進 行 奥野 貴士教授(理学部 主担当/データサイエンス教育研究推進センター長) もくじ テーマ1:データサイエンティストと聞いてイメージすることは? テーマ2:いま話題の「ChatGPT」もう使ってみましたか?(Vol.2へ) テーマ3:人工知能が人間を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」は来ると思いますか?(Vol.3へ) 番外編:参加学生のコメント(番外編へ) テーマ1:データサイエンティストと聞いてイメージすることは? ❝身近な「データサイエンス」❞ 奥野:皆さん、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。昨年度、玉手学長にデータサイエンスの学びの大切さを学生に伝える企画にご協力いただきたいとご相談したところ、玉手学長から“学生と語る場が良いのでは”というご提案をいただいたことで、今回の企画が実現しました。今日は皆さんと身近なデータサイエンスをテーマに話していきたいと思います。では、まずは玉手学長から、ひと言お願いします。 玉手:私は理学部の教員をしていた頃からクマに関する研究をしており、そこでデータサイエンスを活用していました。例えば、私が以前に発表した論文(Uno et al.2015)を紹介すると、これまでに得られた約3000のクマの出没データを分析し、川からの距離や標高などの環境要因と出没の関係性から、その確率を調べるというものです。ちなみに私は趣味でフィギュアを集めるのが好きです。(すみっコぐらしのチョコエッグを出して)これは全部で21種類あり、コンプリートを目指しています。今日は皆さんにプレゼントします。 学生:かわいい!ありがとうございます! 玉手:データサイエンスの手法の中に「ベイズ統計」というものがあります。このカプセルトイ、いったい何個買ったら全種類が揃うと思いますか? メーカーはできるだけ多くを売りたいけれど21種類を等確率で混ぜてしまうと、目当てのものがすぐに手に入ってお客さんは買うのを辞めてしまいます。だから、もう少しで手が届く程度に適切な比率で種類を混ぜることで、売上を伸ばすことができるというわけです。メーカーによって混ぜ方が異なるため、私は20個ほど大人買いして、そのデータから混合比率を推定して楽しんでいます。 学生:へぇ〜、おもしろい! 玉手:レアが出たら私にくださいね。 学生:笑! ❝データサイエンティストってどんな人?❞ 奥野:ではさっそくサイコロを投げてテーマを決めていきましょう。最初は玉手学長、お願いします。──ひとつめのテーマは「データサイエンティストってどんな人?」です。玉手学長、いかがですか? 玉手:私のデータサイエンティストへのイメージはふたつありますね。ひとつめは、データを構造的に活用するスキルを持ったプロフェッショナルな人物像です。このようなスキルを身につけるには、大学でプログラミングについての理解を深めることが必要不可欠です。今はAIによるプログラムの自動化が進んでいますから、さらにそこから人々が喜ぶものを導き出すための構造やアプローチについて学ぶことも必要になるでしょう。 奥野:企業には大量のデータが集まります。データサイエンティストはそれを解析し、データから導かれる結論・判断や解決策を提案したり、そのデータを企業経営の意思判断に活用することもありますね。 玉手:ですから、むしろデータをどう処理するかよりも、「データを使って何ができるか」という視点で学ぶことが大切です。学部で基礎的なスキルを身につけておけば、将来に活かすことができるでしょう。そのような意味では、大学の研究者から企業でデータを活用して社会的課題に取り組む人まで、データサイエンティストと呼ぶことができると思います。 一方でふたつめのイメージは、必ずしもプロのレベルまではいかないものです。例えば、私は自身のクマの研究でデータサイエンスを意識せず進めていましたが、それが結果的にデータサイエンスの手法になっていた。そのようなレベルであっても良いと思います。 奥野:私は純粋に「データサイエンティストはすごい人」というイメージがありますね。データサイエンティストは膨大なデータを整理・分析するだけでなく、集めたデータから立てた仮説の立証・評価を繰り返し、より良い結果のための施策を出します。ITの知識だけでなく、あらゆる業界の専門的知識とデータを融合し課題解決に導く、とても魅力的な仕事です。データの量や質がそれほど多くなく複雑でなくても、データを扱い、何かを表現することもデータサイエンティストと言えるでしょう。そうなると、データサイエンティストという存在は私たちの多くに当てはまるのかもしれません。そしてそれは、社会にとって必要なスキルでもあります。 玉手:データサイエンティストにはさまざまなレベルがあります。山形大学のデータサイエンス教育はリテラシーレベルからより高度なスキルの取得まで段階的なアプローチを取っています。自分自身がどこまで進みたいか目標を見極めながら、学び進めていくことができます。 秋葉:データサイエンティストのスキルや思考は誰でも持てるものなんでしょうか? 奥野:誰もがデータサイエンティストになれるでしょう。でも、データサイエンティストひとりだけでは仕事を完結することはできません。データを収集する人のほか、その目的や必要性を理解してデータサイエンティストとコミュニケーションができる人材も必要不可欠です。 高橋:文系と理系とでは、どちらで活躍しやすいですか? 玉手:データサイエンティストが活躍する環境は、文系や理系に限定されることなく、どこにでもあります。データを活用して問題を解決することは、どんな業界や組織でも重要な役割を果たすからです。 ❝大切なのは、それをどう使うかを考えること❞ 玉手:山形大学の卒業生の中には、行政に就職する人も多いですよね。行政は施策の効果判断や検証にデータサイエンスやAIを活用しています。自分と違うもの、関係ないものだとは捉えず、自分もそれになりうるものだと考えていきたいですね。 奥野:皆さんは、玉手学長の話を聞く前と後で、データサイエンティストのイメージは変わりましたか? 富岡:データサイエンティストは、資料やグラフを読み取り、その傾向から提案をする職業だと考えていました。話を聞いて、データサイエンティストはあらゆる場所で必要とされる力であり存在なんだなと思いました。 秋葉:データサイエンティストと一言で言っても、かなり幅が広いんですね。今、IT技術の発展で情報やデータが大量にある中で、そのデータの分析方法や提案を考えるという力がこれから必要になると感じました。 玉手:そうですね。データを活用するためには、それを分析するだけでなく、どう活用するかという考え方が大事です。 秋葉:以前授業で取り組んだときに、分析方法が違うだけで答えがまったく別なものになりました。そのときに、分析の方法をしっかりと考えることが大事だと感じました。 玉手:私は自分で研究していたときに一番難しいと感じたのが、データ解析の自動化が進む中での結果の解釈や、追求すべき結果の選択でした。データサイエンスとは、誰かの情報収集や分析の結果でもあります。ですから、判断に正当性を持たせるためには、その答えが導かれたプロセスや背景も知っていた方が良いでしょう。 奥野:データサイエンスティストだけで、かなり話題が広がりましたね。では、次のテーマに移りましょう。(→Vol.2へつづく) 【引用文献】Uno R., Doko T., Ohnishi N.,Tamate H.B.(2015) Mammal Study 40(4):231-244 https://doi.org/10.3106/041.040.0404
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2023/09/29
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データサイエンス座談会 Vol.2
テーマ2:いま話題の「ChatGPT」もう使ってみましたか? ❝ChatGPTってどんなもの?❞ 奥野:さて、次のテーマは(学生がサイコロをふり)──。今話題のChatGPTですね。 玉手:皆さんと話してみたかったテーマのひとつです。 奥野:それは楽しみですね。では、この中でChatGPTを使ったことがある人はどんな風に使っていますか?使ったことがない人は、どんなイメージを持っていますか? 田茂:私はまだ使ったことがないのですが、ChatGPTにキーワードを入れて指示し、小説を作ってもらうテレビ番組が印象に残っています。人間だけが感情を使って思考しているのかなと思っていましたが、AIも感情のようなものを使って書いてくるのがおもしろいなと思いました。 玉手:単純に答えが返ってくるのではなくて、読んでる人の感情が動かされるからすごいですよね。 奥野:人の感情というのは「良い」とか「悪い」ということですよね。ChatGPTを始めとする生成型のAIツールは、その感情をスコアで表して、スコアがひとりで歩けるように勉強させています。一番最初にそのスコアを人間が付け、今度はそのスコア付けをするプログラムをつくります。そうすると、そのプログラムが自動でスコア付けを繰り返し、莫大な量のデータを蓄積します。そしてそこから導き出された言葉を人が読むと「いいね」と感じる。そんな世界です。富岡君はどうですか? 富岡:僕はChatGPTがニュースで大々的に取り上げられるまでは、企業サイトによくある質問ページのチャットAIのようなイメージを持っていました。質問を入力してもなんだかちょっとズレた回答が返ってくるような。でも小説を書いたり会話をしたりできるのは大きな進歩ですね。 玉手:今まで未来だったイメージがすぐそばにありますよね。齋藤君は? 齋藤:自分が見たのはオモシロツールとしての使い方です。突飛な質問をして、何かおもしろい答えが返ってきたり、自分には彼女ができますか?と質問して、できませんという回答をSNSで自虐ネタとして投稿したり。 玉手:実用的でなくても、感情が豊かになるおもちゃのような一面もありますね。 奥野:使ったことがある人はどうですか? ❝ChatGPT、どんなふうに使ってる?❞ 高橋:私はちょうど昨日初めてChatGPTを使って感動したんです。友人と一緒に、高校生の探求学習のサポートをしていたのですが、高校生たちは自分が何に興味があるか、何を調べたらいいかがわからなくて困っていたんです。そこでChatGPTを使ってみることにしました。 玉手:探求学習ですか。どんなふうに使ってみたんですか? 高橋:まずはChatGPTに「言語の探求について考えています。おすすめはありますか?」と聞いてみました。すると「言語の中でもどんな言語が良いですか?」「文法と文法的なものだと何が良いですか?」など、どんどん質問が出てきて。答えていくと、ChatGPTがどんどん話題を膨らませていきました。そのときに「AIって人間よりもスゴイのでは?」と感じましたね。皆さんはどんなふうに使っていますか? 秋葉:私はChatGPTに人工知能に関するおもしろい論文はあるかを聞いてみたところ、10選ほど紹介してくれました。あとは就活の自己分析をするのにも使えましたね。 奥野:私は企画を考えるとき、まとまった草案をもとに自分の考えにない視点を加味して、思考を整理するのに使っています。玉手学長はどうですか? 玉手:私はChatGPTがレポートの課題をどこまで自動的に書けるのかが気になり、実際に試してみたことがあります。自分が受け持つ基盤共通教育と、さらに理学部の3年生の授業で同じように試してみました。結果は、基盤共通教育の一般的な話題ではほぼ正解、一方で3年の専門知識になるとまだまだ間違いが多くありました。でも、いずれは後者の知識レベルにも追いつくでしょう。 秋葉:挨拶文や講演文の作成にも使えると聞いたことがあります。玉手学長は人前でお話をする機会が多いかと思いますが、ご自身の講演や挨拶の際にChatGPTは活用されていますか? 玉手:そうですね、使うこともあります。ただ、これからますます多くの人々に対してメッセージを発信する機会が増える中では、自分自身の明確な言葉を伝える必要があり、ありきたりなことはAIが言ってくれます。だからこそ自分自身のメッセージは何かを確かめるためにChatGPTを使えますね。これは本質的なテーマなのではないでしょうか。 秋葉:確かにその通りですね。 ❝データが財産になる時代、注意すべきこと❞ 奥野:今、技術が急速に発達し、産業が大転換するほどのことが起こっています。確実に世の中は変わっていく。少しだけでもその世界の流れに興味を向けてみてもよいかもしれません。ChatGPTを使うときの注意点を山形大学のホームページに載せています。新しく生み出される技術をどんなふうに使っていくとよいのか、ぜひ考えてみてください。 高橋:ChatGPTを使うときの注意点は、なにかありますか? 玉手:これからはデータ自体が本当の価値となる時代です。個人のデータは自分自身の財産です。今、大手企業がこぞって生成型のAIツールを一般公開し、多くの人に無料で使わせているのはなぜでしょう。それは実は、個人が持っている貴重なデータを収集しているからです。だから今、企業機密データや個人情報はChatGPTに出してはいけないという規制がかかっています。皆さんもChatGPTを使うときは、自分の貴重なデータが吸い取られないように注意しなければなりません。固有名詞や自分の名前は入れないようにしましょう。自分たちのためにデータをどのように使っていくかを考えることも、データサイエンティストの役目でしょう。 高橋:なるほど。自分の名前や友人や家族の個人情報を入れないように気をつけます。 奥野:ChatGPTは、人間の言語をモデル化した「言語モデル」であり、人間と同じような思考や意識を持っているわけではないということを理解した上で、使い方を考えることが大事です。こんなふうに使えるのでは?どんなところで使えるのか? といった意識が出てくるとおもしろいですね。 (→Vol.3へつづく) もくじ テーマ1:データサイエンティストと聞いてイメージすることは?(Vol.1へ) テーマ2:いま話題の「ChatGPT」もう使ってみましたか? テーマ3:人工知能が人間を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」は来ると思いますか?(Vol.3へ) 番外編:参加学生のコメント(番外編へ)
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2023/09/29
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データサイエンス座談会 Vol.3
テーマ3:人工知能が人間を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」は来ると思いますか? ❝AIが進化しても残る仕事って何?❞ 奥野:さて、次のテーマは(学生がサイコロをふり)──、「人工知能が人間を超える「シンギュラリティ」は来ると思いますか?」です。 玉手:皆さんはシンギュラリティという言葉を聞いたことはありますか? 技術的変換点といって、そこから一気に伸びたり一気に衰退するポイントのことを言います。人工知能が人間と同様の会話能力を持つまでにはまだ至っていませんが、将来的に技術が発展し、AIが人間の思考に対応して自己学習を行うようになると、人工知能におけるシンギュラリティが訪れると考えられます。 富岡:マンガの世界が現実になるかもしれないんですね。 奥野:そうです。これから多くの職業がAIに変わると言われていますね。これまでも手仕事が工場に代わりオートメーションになりましたが、それと同じようなことになるのかなと私はイメージしてます。でも、それでも人でないといけないもの、もしくは人だからこそ残るものはあると思いますか? 富岡:教育現場では、授業の資料はAIの方が簡単に素早くつくることができるかもしれません。でも、生徒が「わからないんです」と質問したときはやはり先生の方が、求められるものに近い対応ができるのではないのかなと思います。ほかにも、最近はお店やホテルや施設の案内係がAIというところも増えていますが、人がやるからこその良さが感じられるものも残したいです。 齋藤:僕がこれは人でなくてはと思うのは、観て楽しむスポーツですね。AIよりも、人が頑張ってる姿を見た方が楽しいし、共感すると思います。 玉手:eスポーツの世界では、もう人間はAIに勝てないですよね。 齋藤:そうですね。機械が入ると勝ち負けの話にはならないことが多いですね。 玉手:高橋さんはどうですか? 高橋:私は人間がやり続けることができる仕事として、感情を表現できるものと、高いコミュニケーション力が求められるものは残ると思います。スポーツや芸術、音楽などはやはり人間でないとできない気がします。コミュニケーションにあたっては、今もこうしてみんなで話してる所に良さがあり、人工知能として話していても感情を揺さぶられることはないと思うんです。 玉手:たしかに、このように皆さんとリアルで対話する臨場感の良さは、AIにはありませんね。 高橋:そうなると保育士や学校の先生、サービス業にも人間の仕事が残り続けて欲しいなと思います。 秋葉:私も高橋さんと同じく、感情に関してはAIは難しいかなと感じます。人間は楽しいだけでは終わらなくて、その裏にはいろいろな複雑な感情があります。 もしそのAIをつくるとしても、必ずモデルになる人がいて、その人の感情や価値観を物差しにして5段階を評価します。だからそれが必ずしも正しいとは限らないと思います。人間の複雑な面や、人間にしかない脳のようなものを超えるのは難しいかなと思っています。 玉手:そういった意味では、AIが人間を超えると言ってもいろいろな超え方がありますよね。 ❝AIが人間を凌駕する!?❞ 玉手:データサイエンス教育研究推進センターでは、例えば蕎麦屋のご主人が経営判断に日常的にデータを活用できるようにする、そのくらいあたりまえにデータサイエンスを世の中に普及させることを目標の一つとしています。 秋葉:蕎麦屋のご主人がケータイのアプリに数字を打ち込んで「今日はどのくらい蕎麦を打っておこうかな?」なんて考える日がきたらおもしろいですね。 玉手:そんな日がくるのは、そう遠くはありません。ここで大切なのは「誰が意思決定をするか」です。AIは、蕎麦屋で日々つくるべき蕎麦の数や行政の意思決定に関するデータを提供しますが、最終的な意思決定をするのは人間です。人工知能は人間の判断を補完することであり、人間を凌駕することはありません。 齋藤:SF映画ではよく、人工知能が人間の代わりに意思決定する世界が描かれていますよね。 玉手:そう、そんなSF映画のような世界にはしてはいけないと私は考えています。蕎麦屋で人工知能を使って「今日は30杯しか売れない」と結果が出ても、それ以上頑張る意志を失ってしまうのは良くありません。「だけどもうちょっと頑張ってみようか」という人間の意志のポイントは下がってはいけません。データを使って割り出した費用対効果に対し、どう考えるかは「人」なのですから。 奥野:最後に考えるのは人。辞めるか、それを良くするためさらに考えるかの意思決定は、その人のモチベーションであり熱意です。たとえAIが人間を凌駕したとしても、私たちは文化的豊かさや揺るぎないアイデンティティを育むために、それぞれの人が自分自身がやりたいと思うことを心から楽しんでやるべきでしょう。綿密に計算して数字を出しても、その通り生きてたらおもしろくないと思いませんか? (学生たち深く頷く) 奥野:今日は皆さん、たくさん話していただきましてありがとうございました。最後に玉手学長からメッセージをお願いします。 玉手:データ主導型社会に向かう自分自身の姿勢というのは、それぞれの人が決めるものです。今日は皆さんが意外と知らないデータサイエンス、そんなテーマをざっくばらんに話す時間を持てて良かったです。 それでは最後にクイズです。皆さんにプレゼントしたこのカプセルトイ、今日ここでダブる確率はどれぐらいあると思いますか? 学生:あ、『ぺんぎん?』がダブっているね。 玉手:答えは…、実はダブる確率は意外と高いんです。データサイエンスをこんな風に日常から、ぜひ考えてみてください。 学生:今日はありがとうございました!とても楽しかったです。(→番外編へ) もくじ テーマ1:データサイエンティストと聞いてイメージすることは?(Vol.1へ) テーマ2:いま話題の「ChatGPT」もう使ってみましたか?(Vol.2へ) テーマ3:人工知能が人間を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」は来ると思いますか? 番外編:参加学生のコメント(番外編へ)
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2023/09/20
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地域の「記憶」をアーカイブし、未来に繋ぐ。「現在」を失わせないために、学生とともに立ち上がる
再開発などを理由に、街並みは刻一刻と変化しています。このままでは景観だけでなく、暮らしていた人々の思いなど、未来に残すべきかけがえのない地域の「記憶」は失われてしまいます。そこで、山形大学附属博物館が中心となり、街並みの撮影やまちの人々へのインタビューをデジタル化する取り組みを進め、その成果をホームページや年に2回開催のイベント「ななはく!」で公開しています。2023年6月に行われた「データサイエンスカフェ」では、「地域の『記憶』をデジタルで集める・残す・活用する」と題して、人文社会科学部の小幡圭祐准教授と、学生サークル「まちの記憶を残し隊」の髙橋怜華隊長にご講演いただきました。イベント終了後、お2人から活動内容やデータサイエンスとの関わり方について、お話しを伺いました。 聞き手・奥野貴士(データサイエンス教育研究推進センター長) 我々の「身の回りにあるもの」も後世に残すべき史料 当初、山形大学附属博物館の佐藤琴先生が、七日町のみなさんと「何か、一緒に取り組んでいきたいですね」という話をしていたところに、私にも声がかかりました。私の専門は日本近代史ですが、現在、山形は非常に変化が激しいと感じていて、記録することへの協力はできるのではないかと考えました。当初は、私が定期的に七日町の街並みを撮影し記録したりしていましたが、今は授業の課題として取り組んだり、学生サークル「まちの記憶を残し隊」のメンバーと活動したりなど、学生を巻き込みながら展開しています。 「歴史」というと「江戸時代」など昔のことを想像する人が多く、古い時代の史料というのは大事にされます。一方で、現在は当たり前に存在している、我々の身の回りの物事や出来事は、大事にされにくい。それらを残していく大切さに気づかないと、100年後や200年後に何も残っていない状態になってしまうかもしれません。私たちの活動が、そういった気づきのきっかけにもなればと思っています。(小幡先生) 山形大学 准教授 小幡圭祐先生(人文社会科学部主担当/日本近代史) 人のココロを動かして、次世代に繋げるために 山形大学 人文社会科学部学生 高橋怜華さん(「まちの記憶を残し隊」隊長) 「まちの記憶を残し隊」の活動に興味を持ってくださる人は、歴史好きが多く、イベントに来てくださる方は比較的年齢層が高めです。でも、歴史に興味がない人たちや若い世代にも、この活動の重要性を伝えていくことが大切なのではないかと思っています。私たちは、街並みの記録だけではなく、インタビューを動画で記録するなど、人々の記憶のアーカイブ化にも取り組んでいます。また、「ななはく!」などのイベントでは、まちの思い出を付箋に書き込んでもらうなどの活動もしています。歴史に興味はなくても、自分に関わるものなら、興味はあるはず。例えば学生時代に流行していたものから、記憶を辿ってもらいアーカイブのきっかけにするなど、人々の想いを次世代に残すことに共感してもらえるような方法を考えていきたいです。 私個人としては、教育にも興味があります。今は、アーカイブをする活動が中心ですが、今後、そのアーカイブを使って、小学生や中学生、高校生などにどのような授業をできるのかを考えたりすることもあります。(高橋さん) 得意分野のスキルを活かし、協力しながら取り組む 私は理系分野については苦手で、全くわかりません。でも、まちの記録や記憶をデジタル化していくという今の活動は、とても楽しんで取り組めています。また、自分は、私たちの活動を広く知っていただくための広報や周知は、比較的、得意分野。そこから自分のスキルアップに繋がることもあります。そのような経験から、メンバーそれぞれが自分のスキルを活かして、協力しあって取り組んでいくことが大切ではないかと、活動を通して感じています。(高橋さん) 私は写真撮影のテクニックがあるわけでもないですし、情報システム技術についてもよくわかっていない部分も多いです。でも、そんな私でも、データサイエンスと言えるものには、今のような形で携われています。「データサイエンス」と聞いても敷居高く感じずに、まずは取り組んでみたらいいのではないかと思います。(小幡先生)
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2023/09/08
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データサイエンスを学んでいる学生は、一歩先に進んでいるという自信を持って!
データサイエンス分野の第一線でご活躍中の方をお招きし、学生と一緒にランチをとりながら、現場のリアルなお話をうかがう「データサイエンスカフェ・ランチ」を2023年6月29日に山形大学・データサイエンス多目的ホールで行いました。このイベントでは、東レエンジニアリングDソリューションズ株式会社・システム技術本部の早川貴倫さんと大坂開さん、東レエンジニアリング株式会社・人事部の新谷友季子さんにお越しいただきました。大阪さんからは「エンジニアリング会社でのDSキャリア」とのご演題で、データサイエンティストの仕事実態と、食品業界のDXを目指した取組実績についてご講演いただいた後、学生との懇談会を実施しました。イベント終了後、データサイエンティストを目指す学生が、学生時代に身につけて欲しいスキルや心構えについて、御三方にお話を伺いました。 聞き手・奥野貴士 データサイエンティストになるために必要な資質とは? 就職活動中の学生さんから「入社するまでにやっておいた方が良いことはありますか?」と聞かれることがあります。データサイエンス分野に関する勉強も大切だとは思いますが、私たち人事部からのアドバイスとしては「コミュニケーション能力を高められるようなアルバイトとかをやってみては?」と言いますね。アルバイトの内容も、家庭教師のような人間関係が固定されるものよりも、接客業など、さまざまな人とコミュニケーションをとる機会があるものがよいと思います。(新谷さん) 仕事をする上で、コミュニケーション能力は非常に重要なスキルです。逆にそこが苦手でやりたくないという人は、データサイエンティストではなく、研究職に進んでいただくほうがよいのかもしれません。また、データサイエンスのスキルアップという点では、自分でテーマを決めて何かに取り組んでみる、というのも勉強になると思います。会社ではチームワークが求められますので、テーマに対してグループで取り組むというのも良い経験になると思いますね。(早川さん) 私は2012年に大学に入学しましたが、当時、データサイエンスはまだまだ浸透していませんでした。データサイエンスという単語を聞き始めたのは2015年頃からでしょうか。今は国内の大学でも、専門的に学べる学部が増えました。データサイエンスは、統計学やプログラミングなどの知識を学びながら、キャリアを進めていく分野だと思います。(大坂さん) データサイエンス分野への就職活動、心構えは? データサイエンティストは、首都圏には多いかもしれませんが、地方ではまだまだ不足していて、これからも益々需要がある分野です。「データサイエンスの勉強をしている」というだけでも、魅力的な人材なのだと思います。(早川さん) 入社前から、プログラミングを完璧にマスターしている必要があるのかと言えば、そうとも言い切れません。入社時には出来なくても、学び続ける意欲があるかどうかが重要です。一方で、学生のみなさんにお伝えしたいのは、将来を決めつけないで欲しいということです。みなさんの将来は無限に広がっていますので、さまざまな視点で就職活動を進めていただければと思います。データサイエンスを勉強しているということは、勉強していない人と比べても一歩進んでいると思いますので、自信を持って欲しいですね。(新谷さん) 前列左から:新谷友季子氏(東レエンジニアリング株式会社)、早川貴倫氏、大坂開氏(東レDソリューションズ株式会社)、後列左から:奥野貴士教授、中西正樹教授(山形大学)
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2023/05/01
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宇宙の謎を解き明かす研究の魅力と学生時代に研究を通して身につけてほしい論理的思考力
近年、宇宙物理学の分野でもデータサイエンス的手法による研究が広まってきています。2023年1月に行われた「データサイエンスカフェ」では、「高エネルギー宇宙物理学とデータサイエンス 〜ときどきドイツ滞在記〜」をテーマに、航空宇宙工学専攻出身で、ドイツの研究所での研究経験もお持ちの山形大学理学部の石井彩子助教にお話しいただきました。イベント終了後、石井先生に、これまでの経歴や研究内容について、お話しを伺いました。 聞き手・奥野貴士 山形大学データサイエンス教育研究推進センター長 (2023年1月20日実施) 研究者を目指した理由は 会話しなくてよい仕事だから? 山形大学 助教(理学部 主担当/専門 宇宙物理学)石井彩子先生 子どもの頃はコミュニケーションが苦手で、将来は人と話さなくてよい仕事がしたいと思い、研究者を目指しました。でも実際になってみると、学会に参加していろいろな人と議論したり人脈を広げたりなど、人と話す必要のある場面がたくさんあると気づきました。研究分野については、「宇宙はきれいでロマンがある」と魅力を感じていたので、宇宙関連への進路を漠然と考えていました。スペースデブリの問題に興味を持ったり、宇宙飛行士を目指したいと思ったり、いろいろと考えましたが、様々な条件を加味して東北大学工学部へ進学。そのまま大学院に進み、大学院修了後は東京大学での特任研究員を経て、2019年10月からドイツの「マックス-プランク重力物理学研究所」でお世話になりました。2021年10月から現職です。 理論・観測の両面から天体現象に迫る 私は、ガンマ線バーストや超新星爆発といった宇宙で生じる天体爆発現象について、数値シミュレーションを用いてその発生メカニズムや放射機構を調べる、という研究を行っています。天体から発せられた光が観測者にどのように見えるのかを調べるため、各々の光子の軌跡を追っていくというシミュレーションを行っています。観測者に届いた時点で各々の光子が持つエネルギーを調べてスペクトルを計算したり、光子を積算することによって光度の時間変化を得ます。このスペクトルや光度の時間変化の計算結果を観測データと比較することにより、シミュレーションで仮定していたモデルや物理過程が正しいかどうか一つ一つ確かめつつ、天体現象の発生メカニズムの解明を目指していきます。観測の場合は、現状の観測装置で観測できる天体しか研究できない一方で、理論研究では将来的に装置の性能が向上した暁には観測されうる、という天体を対象に研究することもあります。しかし、天体現象によってはシミュレーションの中で仮定する初期条件についてほとんど制限がついていないこともあり、モデルが本当に正しいのか疑問が残る場合もあります。 これまでは、理論の研究者との共同研究をメインにしてきましたが、山形大学には、天文台もあり、観測の分野では郡司先生や中森先生、理論では滝沢先生など、アクティブな先生方もいらっしゃいます。理論だけではなく、観測研究との共同研究もできればうれしいです。 将来を見据えながら、 学生時代に学んでほしいこと 将来、技術の発展に伴って、天体の観測数は増えていくと思います。ということは、理論のほうでもモデルをつくる手がかりが増え、理論研究もブラッシュアップされるかもしれません。その反面、モデルの複雑さも増すので、理論研究の方でもより高度なシミュレーションが求められていくと予想されます。 データサイエンスや人工知能などの分野については、学んでいる学生を歓迎する就職先も増えていると思います。「AIの進化に伴い失われる職業」という話題を耳にすることもありますが、AIやデータを操る側が消えることはないと私は思っています。 学生時代にやっておいた方が良いことと言えば、研究を通してデータの解析に慣れておくと、将来役立つことがあると思います。グラフ一つを読むにも、慣れていないと正しい解釈ができないということがありえます。研究活動を通して身につけた論理的思考力は、将来にも活かされると思います。 また私は、ドイツ在住時、日本の常識が通用しないことによく遭遇して、何度もショックを受けました。そういうことを、現地でのさまざまな体験を通して知ることができ、ドイツ渡航前に比べるとかなり視野が広がったと思います。また、ドイツに行ったからこそ、日本の、特に地方都市の魅力にも気がつくことができました。学生のみなさんには、機会があれば積極的に海外に行くことをおすすめしたいです。
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